浦和地方裁判所 昭和57年(ワ)31号・昭56年(ワ)1212号 判決
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【判旨】
二被告らの責任について
1 <証拠>によれば、本件事故の現場は東武野田線東岩槻駅から南へ約一キロメートルの地点で、この附近をほぼ東西に走る県道岩槻春日部線(以下「本件県道」という。)に右東岩槻駅方面から延びてくる市道(以下「本件市道」という。)がT字型に交差する交差点(本件交差点)内の一地点であること、本件交差点附近の概況は別紙図面1に示すとおりであり、同図面記載の①、②、③、④の各点に信号機が設置され、本件事故当時これらが正常に作動して交通整理が行われていたが、右①点及び②点の信号機(以下右②点の信号機を「乙信号機」という。)と右③点及び④点の信号機(以下右③点の信号機を「甲信号機」という。)の信号サイクルは別紙図面2に記載するとおりであること、原告は本件事故直前甲車を運転して本件市道を時速約四〇キロメートルで南進し、本件交差点にさしかかつたが、別紙図面1記載の点附近で速度を約三〇キロメートルに落とし、右折しながら同交差点内に進入したところ、同図面記載の点附近で、同図面記載の点附近を疾走してくる乙車を認め、そのまま右折を継続して本件県道の南側車線に回避しようとしたが間に合わず、同図面記載の点附近で自車を甲車と衝突させたこと、被告佐藤は、本件事故直前乙車を運転して時速約四〇キロメートルで本件県道の中央車線(三車線のうちの中央部)を大宮方面から春日部方面に向つて走行し、別紙図面1記載の点附近において本件市道から右折して本件交差点内に進入してくる甲車を同図面記載の点附近に認めたため、突嗟に乙車に急制動をかけて甲車との衝突を避けようとしたが間に合わず、前記点附近で乙車を甲車の右側運転席部分に衝突させたものであることが認められる。
2 ところで、本件事故当時における本件交差点の各信号機の表示については、原告本人の供述中に、原告は別紙図面1記の点附近で、対面する甲信号機の表示が青色であることを確認したうえ、前記点附近で右折を開始し、同図面記載の点附近で同信号機の表示が黄色に変つたような気がしたが、そのまま右折を継続した旨の供述部分があるほか、警察官が昭和五四年六月一日本件事故現場で施行した同事故の実況見分の結果を記載した調書である前掲甲第一一号証にも、右実況見分に立ち会つた原告の指示説明として右と同旨の供述記載があり、右供述部分及び供述記載を前提にすれば、前記認定のとおり原告は前記点附近からは時速三〇キロメートル(秒速8.33メートル)で進行しているのであるから、前記から衝突地点である点に至るまで(その距離は別紙図面1記載のとおり14.8メートルである。)に要した時間は1.77秒ということになり、別紙図面2記載の信号サイクルからすれば、右衝突時点における甲信号機の表示は引き続き黄色、乙信号機のそれは赤であつたことになる(以下右原告の供述部分及び供述記載を総称して「本件支持証拠」という。)が、他方、被告佐藤本人の供述中には、同被告は、本件交差点の手前約五〇メートルの地点で対面する乙信号機の表示が青色であることを確認し、その後も甲車と衝突するまでの間も継続して右信号表示は変らなかつた旨の供述部分があり、また、警察官が昭和五四年二月一六日本件事故現場で施行した同事故の実況見分の結果を記載した調書である前掲乙第七号証には、右実況に立ち会つた同被告の指示説明として、本件事故の発生原因は原告の信号無視によるものである旨の供述記載が、被告佐藤が本件事故に関し自動車保険料率算定会自動車損害賠償責任保険大宮調査事務所に提出した回答書である前掲乙第一二号証には、同被告が本件交差点に入るときの甲信号機の表示は青色であつた旨の記載がそれぞれなされている(以下右被告佐藤の供述部分及び供述記載を総称して「本件反対証拠」という。)。
3 このように、本件事故時における本件交差点の信号表示については、原告側の言い分と被告側のそれとが真向から対立するため、事柄の性質上右の点についての第三者の供述が重要な意味を帯びてくるのであるが、前掲乙第七号証及び前記証言によれば、森信善(以下「森」という。)は、本件事故発生の直前乙車の三台後方に続いて走行していたタクシーの運転手で、同事故発生直後の状況を目撃した者であり(ただし、同人は甲車と乙車の衝突の瞬間は目撃していない。)、前記昭和五四年二月一六日施行の実況見分に立ち会つたことが認められるところ、右実況見分の調書である前掲乙第七号証には、同人の指示説明として「貨物(注=乙車のこと)の方は青でしたので、おそらく乗用車(注=甲車のこと)の信号無視です。信号はかなり手前から青でした。」との供述記載がある。ところが、森は、その証人としての供述においては、右実況見分の際乙信号機の表示がかなり手前から青色であつたと明言したことはなく、また、乙信号機の表示が青色であつたと供述したのは、本件交差点の手前まで来たところ直前の先行車が停車したため、対面の信号を確認しないまま自動車を停止させてタクシーの日報を書いていたら、前方で「ドカン」という甲車と乙車の衝突音が聞えたので、突嗟にその方向をみると、対面する乙信号機の表示が青色であつたことから、本件事故時の乙信号機の表示は青色であつたと判断したことによるものである旨供述しているが、右供述にかかる森運転のタクシーの停車位置は、甲第一三号証の(三)及び(四)の各写真の左端に撮し出されている交通標識の横辺りであつたというのであるから、同号証の(四)及び(五)の写真ならびに前掲乙第七号証から右供述にかかる停車位置を推認すると、おおよそ前記点附近となる。
4 ところで、前掲乙第七号証の森の供述記載部分が本件反対証拠と符号することは明らかであるが、前記森の証人としての供述部分は、同人の直前の先行車が本件交差点の手前で停止したという理由が乙信号機の表示が赤色であつたためであり、したがつて、森が甲車と乙車との衝突音を聞いた直後に見たという同信号機の青色表示は赤色信号から変つた直後のそれであつたと仮定すれば、本件支持証拠と符合する可能性がないとはいえない。しかしながら、仮に前記森の証人としての供述部分を前提とすれば、乙車が前記点から前記点(その距離は別紙図面1記載のとおり一九メートル)に至るまでの時間内に、同車の三台後方に位置していたタクシーの運転者である森は、自車を減速させたうえ前記点附近まで進めて停車させ、さらに日報をとり出してその記入までしたということになるのであるが、乙車が前記点から前記点に至るまでの時間は、被告佐藤本人が、「そのときは、『あー』という一言でブレーキを踏んでも間に合いませんでした。」と供述するように瞬時というに近かつたと考えられるのであつて、その時間内に森において右のような一連の操作又は所作をするほどの余裕があつたとは到底信じ難く、仮に森運転のタクシーが本件交差点手前で停車したことが真実であるとしても、同人が甲車と乙車の衝突音を聞いたのは遅くとも同人運転のタクシーが停車した直後であつたと考えるのが自然であり、果してそうであるとすれば、同人運転のタクシーの直前の先行車が停車したというのは乙信号機の表示が赤色であつたからではなく、同車又はその先行車が先行する乙車が急制動をかけて停止するという異常な行動に出たことから、これとの追突を避けるためであつた(したがつて、同人が甲車と乙車の衝突音を聞いた直後に見たという乙信号機の青色表示は赤色表示から変つた直後のものではない。)とも考えられる。これを要するに、森の前記供述があるからといつて、必ずしも本件支持証拠と符合することにはならないのである。
のみならず、森が、前記実況見分の際に、「信号はかなり手前から青でした。」と言つたことはないと供述する部分は、同人の証人尋問が右実況見分施行の日から約四年二か月を経過した昭和五八年四月二一日の証拠調期日において行われたこと(この事実は本件記録上明らかである。)からすれば、同人の正確な記憶に基づく供述であるかについて疑問をさしはさまざるを得ないし、また、右実況見分は本件事故発生の当日施行されたものであつて、同人の同事故についての記憶はきわめて鮮明であつたと考えられること、右実況見分当時同人において、故意に被告会社又は被告佐藤に有利な(したがつて原告に不利な)虚偽の供述をする理由を見い出し難いこと(弁論の全趣旨によれば、右当時、森と本件各当事者との間には何らの利害関係もなかつたことが認められる。)に鑑みれば、前掲乙第七号証中の森の後述記載はきわめて信ぴよう性が高いというべきであり、したがつてこれと符合する本件反対証拠の信ぴよう性もまた肯定することができる(必然的に、本件支持証拠は信ぴよう性が乏しい)というべきである。
5 なお、原告、被告佐藤各本人尋問の結果によれば、本件事故の直前甲車の僅か前方を先行する別の車両があり、同車も本件市道から右折して本件交差点に入り、さらに本件県道の南側車線に進入したことが認められるが、右のとおり本件反対証拠の信ぴよう性を肯定すべきものとすると、右甲車の先行車も甲信号機の表示が赤色であるのに本件交差点に進入したことになり、かくては、甲車と併せて二台の車両が連続して信号無視を犯したことになるのであつて、かかる事態は異常である(したがつて、甲信号機の表示は赤色ではなかつた。)とも考えられないではないけれども、逆に原告はその直前の先行車に無意識の裡に誘引されて信号無視の運転をしたとも十分考えられるから、右認定のような甲車の先行車が存在したとしても、前記証拠判断の妨げにはならない。
三以上によれば、本件事故は、甲車を運転していた原告が、対面する甲信号機の表示が赤色であるにも拘わらず、これを無視して本件交差点を右折しようとしたため、乙信号機の青色表示に従つて同交差点を直進、通過しようとした被告佐藤運転の乙車と衝突したものであつて、その原因は挙げて原告の信号無視の過失にあるといわざるを得ないから、被告佐藤に信号無視の過失があることを理由として、同被告及び被告会社に不法行為責任があるとする原告の請求原因は失当であり、また、前記認定事実によれば、被告会社は乙車の運行供用者というべきであるけれども、被告佐藤及び被告会社は乙車の運行に関して注意を怠らなかつたものであるうえ、弁論の全趣旨によれば、本件事故当時乙車には構造上の欠陥又は機能の障害がなかつたことが認められるから、被告会社の運行供用者責任免責の抗弁は理由がある。したがつて、その余の点について判断するまでもなく、原告の被告らに対する請求はいずれも理由がない。
(反訴)
一 請求原因1の事実(本件事故の発生)は当事者間に争いがない。
二 同2についての判断は本訴理由二と同旨であるから、原告は被告会社が本件事故により被つた損害を賠償すべきである。 (小池信行)
別紙別紙